碩学舎では、2018年より、生協が提供するアプリを利用し、「1からシリーズ」テキストの電子書籍提供を始めました。2018年には、近畿大学経営学部「マーケティング」(1年生約100名履修)にて「1からのマーケティング」、首都大学東京経済経営学部「マーケティング・コミュニケーション」(2年生以上約200名履修)にて「1からの消費者行動」が実際に利用されています。この電子書籍では、テキストへのマーキングやコメントを学生と教員間で共有し、ICTを活用したインタラクティブでアクティブな授業を実施することができます。今回は、実際に電子書籍を利用した近畿大学の廣田章光教授と、興味をお持ちの武庫川女子大学の高橋千枝子教授に対談いただくことで、電子書籍の使い方と可能性について考えました。
高橋先生:電子書籍で授業を行うためには、どのような準備が必要になりますか?誰でも簡単にできますか?
廣田先生:まず、この電子書籍は生協が提供するプラットフォームで利用できるようになっていますので、生協の協力が必要です。
その上で、教員側と学生側で少し必要なものは変わります。教員側は、事前に電子書籍の利用を学生に周知できた方がいいです。合わせて、生協に電子書籍の販売方法を確認しておく必要があります。ここは、出版社でも生協でも問い合わせいただければ対応してくれます。
教員も学生も、①生協が提供している電子書籍閲覧アプリが必要です。キンドルのようなもので、スマホ、タブレット、PCそれぞれに用意されています。その上で、②生協のウェブサイト上で、会員登録をしておきます。最後に、③電子書籍をクーポンで各大学生協で購入します。コードをアプリで読み込めば、端末内に書籍データがダウンロードされます。ダウンロードされた書籍データ上では、会員と授業グループが生協のシステム側で紐づけられることにより、授業グループ内で情報共有が可能になります。
高橋先生:情報共有は電子書籍を用いた授業の大きな特色だと思います。具体的に、どんな共有ができるようになるのですか?
廣田先生:基本的には、教員と学生によるテキストへのマーキングや、記載したコメントを共有することができます。もちろん、全てが強制的に共有されるということではなく、他の人にマーキングやコメントを共有しないという設定もできます。
学修状況を共有できるということは、まさにこの電子書籍を利用する場合の大きな特色になります。紙書籍の場合には、授業で説明した箇所をマークしてもらうといった方法しかとることができませんが、電子書籍では、相互にマークした箇所を共有し、リアルタイムで更新することもできます。
高橋先生:電子書籍をみるのは基本的にスマホになりますね。スマホでテキストを見るとなると、学生は授業中スマホをいじり続けることになってしまいませんか?
廣田先生:紙書籍がスマホに代わるということなので、学生は授業中にスマホやタブレット、あるいはPCを見ることになります。確かに、スマホを見ている学生が、本当にテキストを読んでいるのか、それともSNSを見たりあるいはゲームをしているのかを確認することはできません(笑)。ただそれでも、授業中には正面画面でテキストやあるいはパワーポイント画面を表示して説明をします。学生は都度顔を上げてその内容を確認するということになります。また、やろうと思えば、授業中に本当に学生がテキストを見ていたのかどうか、後で教員側で閲覧データを確認することもできます。
学生からの事後評価として、欠席してもマーキングやコメントのデータは共有されているため、後で確認することができたというコメントもありました。逆に言えば授業に出なくてもいいことになってしまいますが、そこは電子書籍をうまく利用して面白い授業を展開するという教員側の腕の見せ所となります。
高橋先生:面白い授業やより魅力的な授業をしたいというニーズは教員に強くあると思います。具体的には、どういう授業ができますか?
廣田先生:教員側から事前にコメントや課題を出しておくということもできますし、学生側で事前に予習してもらって気になる箇所にマーキングやコメントをつけておいてもらうということもできます。授業では、単なるテキストが画面に表示されるわけではなく、履修者が気になった箇所がマークされた情報がスクリーンに表示されることになります。学生は、自分が気になったところに他の人もマークしていることや、逆にしていないということを見ることができ、周囲の理解や興味を知ることができます。
いずれにせよ、まだ電子書籍の利用は始まったばかりですので、具体的にどういう面白い授業ができるのかは、試行錯誤でこれからいろいろと見えてくるものと思います。例えば、テキストの最後についている「考えてみよう」についての回答などを共有したり、将来的には、そのための専用掲示板などを作っていくこともできるかもしれません。
高橋先生:授業中にスクリーンに電子書籍のテキストを表示するという場合、それを読んでいくような授業になりますね。パワーポイントや絵に慣れた学生でも対応できますか?
廣田先生:テキスト上にリンクを張ることもでき、ブラウザに飛ぶことで動画を見せたり、画像を見せることもできます。テキストの文章だけではない表示が重要になります。同時に、近年では学生の読解力の低下や、そもそも文章が読めなくなってきているという指摘もあると思います。パワーポイントの授業ではなく、テキストを表示させる授業は、こうした読解力や文章を読む力を向上させることにもつながるのではと考えています。
高橋先生:学生の意欲がこれまで以上に必要ではないですか?
廣田先生:学生のやる気の濃淡はあります。とはいえ今回の授業は1年次を対象にしており、意欲も様々だったと思いますが、授業後に確認した評価アンケートでは、電子書籍の利用は概ね好評でした。授業のやり方ももちろんですが、それだけではなく、例えば紙書籍を持ち運ぶ必要がないといった細かい理由も重要のようです。意欲の高い人は高い人なりに、低い人は低い人なりに価値がありそうです。
高橋先生:そうしますと、大人数の授業でも利用可能ですか?
廣田先生:今回の授業では100人程度、また別の授業では200名程度で電子書籍を利用しています。少人数であればもちろんインタラクティブな授業ができますが、電子書籍を利用することで、大人数の授業でもある程度インタラクティブな授業ができるようになるのではと考えています。もちろん全く同じように行うというわけではなく、まずは最初として、少人数のゼミなどを電子書籍で行ってみるという方法が現実的かもしれません。
高橋先生:マーキングやコメント以外に、インタラクションを促進するような機能はありますか?
廣田先生:その場で簡単なクイズを出し、選択式で答えるようなことは可能です。このあたりは、電子書籍だけで完結するのではなく、グーグルフォームや大学で用意されている自前の授業システムを利用することもできます。電子書籍のアプリ一つですべての作業を完結させる必要はなく、むしろ他のサービスをうまく連携した方が効果的かもしれません。
高橋先生:誰がマーキングやコメントしているのかはわかるのですか?
廣田先生:スクリーン上にオープンに表示されるのはニックネームですので、むしろ匿名の状況になります。その意味では、学生にとってはマーキングやコメントがしやすいのではないかと思います。一方で、むしろ逆にニックネームに実名を入れるように事前に指示しておけば、誰のコメントかもわかるようになり、指名して追加で授業中に話をしてもらうといったこともできるようになります。この辺りは授業の設計次第です。
ちなみに、教員側では別途学修番号などを確認することができますので、誰のコメントかを知ることができます。学生に周知していれば、そのコメントを授業評価に反映させることもできます。
高橋先生:実際にどういう授業が行われているのか、見学することはできますか?
廣田先生:関東、関西でそれぞれ探索的に授業を実施していますので、近くで見学してもらうこともできます。いつでもご相談ください。
廣田章光 近畿大学経営学部商学科教授
主な書籍に『1からのマーケティング・デザイン』(編著)、碩学舎、2016年。『1からのマーケティング 第3版』、碩学舎、2009年。
高橋千枝子 武庫川女子大学経営学部設置準備室教授
主な書籍に『プロフェッショナルサービスのビジネスモデル』、碩学舎、2017年。
電子書籍につきまして、随時情報を更新していく予定です。
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